岡山地方裁判所 昭和56年(行ウ)19号 判決 1987年1月30日
岡山県新見市孝夫二四八一番地の二三
亡佐野次郎訴訟承継人原告
佐野和子
群馬県高崎市末広町一一番地の五
亡佐野次郎訴訟承継人原告
村松美智子
東京都港区虎ノ門五丁目三番
亡佐野次郎訴訟承継人原告
佐野衆一
岡山県新見市高尾二四八一番地の二三
亡佐野次郎訴訟承継人原告
佐野令子
右原告ら法定代理人亡佐野次郎相続財産管理人
佐野和子
右原告ら訴訟代理人弁護士
水谷賢
岡山県新見市新見八二三番地
被告
新見税務署長
岩本敏明
右指定代理人
宮越健次
同
古谷智春
同
藤川哲
同
山口光男
同
佐下勝義
同
杉本孝二
同
高地義勝
主文
一 原告らの請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
(当事者の求めた裁判)
第一請求の趣旨
一 被告が佐野次郎に対してした次の課税処分を取消す。
1 昭和五二年分の所得税に関し、昭和五五年五月一六日付でした更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分
2 昭和五三年分の所得税に関し、昭和五四年一二月二七日付でした更正処分(但し、決定及び裁決による一部取消後のもの)
二 訴訟費用は被告の負担とする。
第二請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
(当事者の主張)
第一請求原因
一 課税処分等の経緯
1 昭和五二年分
(一) 佐野次郎は、昭和五二年分の所得税に関し、被告に対し、別表一「昭和五二年分課税経過表」記載イ欄のとおり確定申告をし、更に同表記ロ欄のとおり更正の請求をしたところ、同表記載ハ欄のとおりの更正処分を受け、更に同表記載ニのとおり更正の請求をしたところ、同表記載ホ欄のとおりの更正処分を受けた。その後、同表記載ヘ欄のとおりの修正申告をしたところ、同表記載ト欄のとおりの右修正申告に対応した過少申告加算税の賦課決定処分を受けた。
(二) 右修正申告に対し、被告は佐野次郎に対し、昭和五五年五月一六日、同表記載チ欄のとおり更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分をした(以下、昭和五二年分については、更正処分或いは賦課決定処分という場合は、この更正処分や賦課決定処分を指す。)。
(三) 佐野次郎は、右各処分に対し、同表記載リ欄のとおり異議申立をしたところ、被告から同表記載ヌ欄のとおり棄却の決定を受けたので、同表記載ル欄のとおり国税不服審判所長に対し審査請求をした。
2 昭和五三年分
(一) 佐野次郎は、昭和五三年分の所得税に関し、別表二「昭和五三年分課税経過表」記載イ欄のとおり確定申告をした。
(二) これに対し、被告は佐野次郎に対し、昭和五四年一二月二七日、同表記載ロ欄のとおり更正処分等をした。
(三) 佐野次郎は、右各処分に対し、同表記載ハ欄のとおり異議申立をしたところ、被告から同表記載ニ欄のとおり一部取消の決定を受けたので、更に、同表記載ホ欄のとおり国税不服審判所長に対し審査請求をした。
3 国税不服審判所長は、右1(三)と2(三)の審査請求に対し、昭和五六年七月二二日、昭和五二年分については別表一記載オ欄のとおり棄却の、昭和五三年分については、別表ニ記載ヘ欄のとおり一部取消の各裁決をし、右裁決書の謄本は昭和五六年八月一二日佐野次郎宛発送された。
4 佐野次郎は、昭和五二年分につき更正処分や過少申告加算税の賦課決定処分の、昭和五三年分につき更正処分(但し、決定及び裁決による一部取消後のもの)(以下、以上の各処分を「本件各処分」という。)の各取消を求める行政事件訴訟を提起した。
佐野次郎は、右訴訟の係属中の昭和五九年七月三一日死亡し、その法定相続人である原告らが右訴訟を承継した。なお、原告らは、家庭裁判所に限定承認の申述をし、原告佐野和子がその相続財産管理人に選任された。
二 本件各処分の違法性
1 佐野次郎は、昭和五二年分及び昭和五三年分(以下、「本件各係争年分」という。)の資産の譲渡につき、所得税法六四条二項(保証債務の履行のための資産の譲渡の特例)が適用されるとしてその計算明細書を添付して、別表三「昭和五二年分の分離長期短期譲渡所得金額の計算書」記載の原告の修正申告欄どおりの修正申告、及び、別表四「昭和五三年分の分離長期短期譲渡所得金額及び山林所得金額の計算書」記載の原告の確定申告欄どおりの確定申告をそれぞれしたところ、被告は、右所得税法六四条二項の適用を殆ど否認して本件各処分をした。
2 しかしながら、本件各処分は、昭和五二年分及び昭和五三年分の資産の譲渡につき、昭和五三年分の一部につき資産の譲渡経緯を誤って認定したこともあって、所得税法六四条二項の適用を殆ど否認した点並びに右適用を否認した結果昭和五三年分については、課税総所得金額及び課税長期譲渡所得の合計金額が一〇〇〇万円を超えるとして配当控除税額を配当所得金額の五パーセントとして計算している点において、違法があるので、その取消を求める。
第二請求原因に対する認否
一 請求原因一は認める。
二 同二1は認める。
同二2は争う。
第三被告の主張
一 資産の譲渡
1 佐野次郎は、昭和五二年分として別表五「譲渡資産の明細」記載その1の<1>ないし<3>の資産(高尾Aの土地、高尾Bの土地、その他一筆)を昭和五三年分として同表記載その2の<1><2>の資産(高尾Cの土地、鳥取の保安林)をそれぞれ譲渡した(以下「本件資産の譲渡」ということもある。なお、右各表中の物件名は以後、同各表中略称欄記載の略称で呼称する。)。
右の資産の譲渡についての、分離長期譲渡所得、分離短期譲渡所得、山林所得の別及びその収入金額、取得費は、別表三の被告主位的主張欄、別表四の被告主位的主張欄の各<1>、<2>(各被告予備的主張欄の<1>、<2>も同金額である。)記載のとおりである。
2 右のうち、鳥取の保安林の譲渡の経緯は次のとおりである。即ち、
(一)(1) 株式会社新見木材センター(以下「木材センター」という。)は、昭和五二年一月四日、マルモ興業株式会社(以下「マルモ興業」という。)との間で、新見市高尾六九六番地の二宅地二四二・八八平方メートル及び同所同番四の宅地一二三・九〇平方メートル(以下、右二筆の土地を「高尾Dの土地」という。)を代金一二〇七万円で売却する旨の契約を締結し、同年二月、右代金内金一〇七九万五〇〇〇円の支払を受けた。しかし、木材センターは、高尾Dの土地上に存する建物の除去ができず、代金の内払を受けながら、右売買契約の履行ができない状況となった。
(2) そこで、木材センターの代表者である佐野次郎個人は、マルモ興業の代表者杉岡茂個人及び杉岡彰、青木克己の三名(以下「杉岡茂外二名」という。)に対し、自己所有の鳥取の保安林(一四五〇万円相当)を譲渡した。
右譲渡の対価として、佐野次郎個人は、マルモ興業から、木材センターが売却した高尾Dの土地(一二〇七万円相当)の譲渡を受けると共に、その差額二四三万円(14,500,000-12,070,000)を交換差金として(以下「交換差金二四三万円」という。)杉岡茂外二名から支払を受けた。
また、杉岡茂外二名は、マルモ興業に代り右(1)の売買残代金分として一二七万円を木材センターへ支払い、右(1)の売買契約の決着をつけた。
(3) つまり、佐野次郎は、鳥取の保安林を杉岡茂外二名に譲渡し、その対価として、マルモ興業から高尾Dの土地(一二〇七万円相当)を取得するとともに、杉岡茂外二名から交換差金二四三万円の支払を受けたものである。
(二) 仮にしからずとすると
(1) 佐野次郎は、長男の原告佐野衆一及び長女の原告佐野美智子(以下「衆一外一名」という。)に、鳥取の保安林(一四五〇万円相当)の一部を代金九二〇万円で売却した。
(2)<1> その代金債権九二〇万円は、当時佐野次郎が衆一外一名に対し負っていた負債九二〇万円と合意相殺した。
<2> 右<1>が認められないとしても、佐野次郎は衆一外一名から昭和五二年秋に三〇〇万円、昭和五三年二月に三〇〇万円及び同年夏に三二〇万円の支払を受けた。
(3) なお、木材センターは、昭和五二年一月四日、マルモ興業との間で、高尾Dの土地を代金一二〇七万円で売却する旨の契約を締結し、同年二月、右代金一〇七九万五〇〇〇円の支払を受けていた。
(4) 鳥取の保安林は、右(1)の譲渡により佐野次郎と衆一外一名の三名の共有(衆一外一名の持分九二〇万円分、佐野次郎の持分五三〇万円分)となったところ、右共有者三名は、杉岡茂外二名に対し鳥取の保安林を譲渡した。
右譲渡の対価として、右共有者三名は、マルモ興業から木材センターが売却した高尾Dの土地(一二〇七万円相当)の譲渡を受ける(衆一外一名の持分九二〇万円分、佐野次郎の持分二八七万円分)と共に、その差額二四三万円(14,500,000-12,070,000)を交換差金として佐野次郎が杉岡茂外二名から支払を受けた。
また、杉岡茂外二名は、マルモ興業に代り右(3)の売買残代金分として一二七万円を木材センターへ支払い、右(3)の売買契約の決着をつけた。
(5) つまり、佐野次郎は、鳥取の保安林を衆一外一名及び杉岡茂外二名に譲渡し、その対価として、衆一外一名に対する負債九二〇万円が消滅し(予備的に衆一外一名から現金九二〇万円の支払を受け)、マルモ興業から高尾Dの土地の持分(二八七万円相当)の譲渡と杉岡茂外二名から交換差金二四三万円の支払を受けた。
二 前記一の資産の譲渡に関し、所得税法六四条二項の適用を認める金額(以下、単に「保証債務の額」ということもある。)、特別控除額は別表三の被告主位的主張欄の<3>、<5>、<6>、別表四の被告主位的主張欄の<3>、<5>(いずれも主位的主張が理由がない場合は予備的主張欄の対応部分)のとおりである。
従って、原告の昭和五二年分の分離長期譲渡所得及び昭和五三年分の分離長期譲渡所得、分離短期譲渡所得、山林所得の各金額は、それぞれ別表三及び四の各被告所位的主張欄記載のとおり(仮にしからずとするも右各表の被告予備的主張欄記載のとおり)であるから、いずれもその範囲内でなされた本件各処分は適法である。
第四被告の主張に対する認否
一1 被告の主張一1の事実は認める。
2 同(一)2一の事実は否認する。
同一2(二)の事実は、(2)<1>を否認し、その余は認める。
原告は、後記鳥取の保安林の売却代金の使途(第五の三3)との関連もあり、その譲渡経緯として被告の主張一2(二)(1)、(2)<2>、(3)、(4)の主張を原告に有利に援用する。
佐野次郎は、衆一外一名から同一2(2)<2>のとおり、現実に売買代金の支払を受けている。衆一外一名が佐野次郎に支払った売買代金の出所は次のとおりである。
(一) 衆一外一名は、新見市足立二七七六番山林二六三八六平方メートル外九筆の土地(以下「足立の山林」という。)を所有していたところ、佐野次郎は、衆一外一名の承諾を得てこれを第三者に売却し、その売買代金九二〇万円を衆一外一名に渡さずに、費消してしまった。その結果、佐野次郎は衆一外一名に対し、右売買代金九二〇万円を返還すべき債務が発生した。
(二) 衆一外一名は、佐野次郎から、右債務の返済として、昭和五二年一一月三〇〇万円、同年冬頃三〇〇万円、昭和五三年夏頃三二〇万円の返済を受け、右返済を受ける都度、その翌日頃、返済を受けた金額を、被告の主張2(二)(2)<2>のとおり、鳥取の保安林の持分の買受代金として佐野次郎に支払ったものである。
二 同二の主張は争う。
第五原告の反論 所得税法六四条二項の適用
昭和五二年分の高尾Aの土地の譲渡による収入中一四〇〇万円分、並びに、昭和五三年分の高尾Cの土地の譲渡による収入全部及び鳥取の保安林の譲渡による収入中八三二万四〇〇〇円分については、いずれも所得税法六四条二項(保証債務の履行のための資産の譲渡の特例)が適用され、その所得金額の計算上なかったものとみなされるべきである。即ち、
一 資産の譲渡につき所得税法六四条二項が適用されるためには、(一)資産の譲渡が保証債務を履行するために行われ、現実に保証債務の履行(弁済)がなされたこと、(二)保証債務の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができなくなったことの二要件の充足が必要であり、右(一)の要件は、<1>債務の弁済があったこと、<2>右弁済は、右譲渡代金をもってなされたこと、<3>右債務は保証債務であること、<4>右資産の譲渡は、もともと、右保証債務を弁済するためになされたことの四つの要件に分けられるところ、右<3>の要件は、更に昭和五四年一〇月二七日付国税庁長官通達直審五一二二(以下「本件通達」という。)によれば、ア資金の借入をしようとするもの(実質上の債務者)が農業共同組合の組合員でないため当該組合から資金の借入ができないので、イ当該組合の組合員(名目上の債務者)がその資格を利用して当該組合から資金を借入れて、ウこれを実質上の債務者に貸付けており、エ利ざやその他の金利に相当する金銭等を収受した事実がない場合のように、その借入及び貸付が債務を保証することに代えてなされた場合にも、所得税法六四条二項の要件を充足するものとされている。
しかして、佐野次郎の前記資産の譲渡については、以下に順次述べるとおり、右各要件をいずれも充足している。
二 債務の弁済
佐野次郎は、本件各係争年分に、別表六「債務弁済の明細」記載その1、その2、その3のとおり、債務を弁済した(以下、別表六記載の債務は、同表略称欄記載の略称で呼称する。)。
三 右債務の弁済は、本件譲渡代金からなされたこと
1 別表六その1の債務の弁済は、内一四〇〇万円は、高尾Aの土地の売却代金で、残り一〇二万九三四二円は高尾Bの土地の売却代金でなされた。
2 別表六その2の債務の弁済は、高尾Cの土地の売却代金でなされた。
3 別表六その3の債務の弁済は、鳥取の保安林の売却代金でなされた。
四 右弁済された債務は、保証債務又は保証債務に準ずるものであること
1 AないしJ債務について
(一) 木材センターが農業協同組合法の規定からして貸主たる阿新農業協同組合(以下「阿新農協」という。)の組合員となることができず、従って、同組合から資金の借入ができなかった。
(二) そこで、木材センターの代表者である佐野次郎個人、同人の妻の原告佐野和子及び木材センターの経理担当者の佐々井昌子らが、阿新農協の組合員たる資格を利用してそれぞれ個人名義で、別表六記載その1、その2のとおり、AないしJ債務を、その都度借入れた。なお、原告佐野和子、佐々井昌子が借入名義人の場合は、更に佐野次郎が保証をした。
(三) 右佐野次郎、原告佐野和子及び佐々井昌子は、右借入金を直ちに木材センターに対し貸付けた。
(四) 佐野次郎、原告佐野和子及び佐々井昌子は、右貸付につき木材センターから利ざやその他の金利に相当する金銭等を収受していない。
(五) 従って、佐野次郎が阿新農協に対し借入人又は保証人として弁済したAないしJ債務は、木材センターの債務の保証債務に準ずるものである。
2 KないしM債務について
佐野次郎が別表六その3のごとく青梨米助、林業信用基金及び新見土地株式会社(以下「新見土地」という。)に弁済した債務は、木材センター、株式会社佐野商店(以下「佐野商店」という。)の債務の保証債務である。
五 右債務を弁済するため、本件資産の譲渡が行われたこと
佐野次郎は、実質上の借主である木材センターが昭和五一年に、佐野商店が昭和五〇年頃にそれぞれ倒産したため、その債権者である阿新農協等から保証債務の履行を求められ、その弁済資金を捻出するため、右資産の譲渡をした。
六 求償権の行使不能
佐野次郎が、保証債務を履行することにより実質上の債務者に対し求償権を取得したが、右五のとおり、主債務者は倒産しており、その求償権を行使することができない。
第六原告の反論に対する認否及び被告の再反論
一 原告の反論一の主張中、所得税法六四条二項の要件並びに本件通達の存在及びその中に原告主張の要件の掲示がなされていることは認め、その余は争う。
保証債務性(原告主張の<3>の要件)としては、次の要件の充足をも必要とする。
1 所得税法六四条二項の特例及び本件通達が適用されるためには、同族会社とその同族関係者間の私財提供の変形にすぎないものと区別する意味でも、単に原告主張のアないしエの要件を形式的に充足するのみでは足りず、農協・組合員・非組合員の三者間に、非組合員が主たる債務者、組合員がその保証人であるとの実質関係が必要であると解せられる。即ち
債権者にあっては、融資するに当たって債務者に十分な返済能力があることを前提とし、担保も返済能力もない最終的な金員の費消者に対しその回収の危険性を負ってまで融資するなどは到底考えられないから、結局のところ、返済能力があることを調査確認して融資した者を実質的な債務者と認めるのが相当である。
なお、本件通達においては、「実質上の債務者」が「農協の組合員でないため、当該組合から資金の借入ができない」ことが要件とされているが、これは、融資を受ける程度の返済能力を有しながらも、たまたま、組合員でなかったり、その他の融資資格に欠けるような場合をいうものと解すべきである。
2 保証人は、保証債務を履行した場合、主債務者に求償権を行使してその経済的負担を免れることを期待するのは当然のことであり、従って、保証人が求償権の行使による回収の期待が持てないことを予め認識しつつ、その保証をした場合は、主たる債務者の債務を引受けたか、或いは、主たる債務者に対して利益供与又は贈与したとみるべきであり、所得税法六四条二項の特例の適用はないといわなければならない。
二 同二の事実は認める。
三1 同三1の事実は、否認する。別表六その1の債務の弁済は、すべて高尾Bの土地の売却代金で支払われ、高尾Aの土地の売却代金で支払われたものはない。従って、高尾Aの土地の譲渡につき所得税法六四条二項の特例を適用する余地はない。この点については、後記七被告の再反論1で詳しく主張する。
2 同三2の事実は、認める。
3 同三3の事実中、鳥取の保安林の売却代金の中から、二四三万円のみが、別表六その3<2><3>の債務の弁済に充てられたことのみ認め、その余は、否認する。即ち、被告の主張一2(一)及び(二)中の主位的主張で述べたとおり鳥取の保安林の譲渡により佐野次郎が取得した現金は二四三万円にしかすぎず、従って、鳥取の保安林の譲渡につき所得税法六四条二項の特例が適用されるとしても、右二三四万円が限度である。
四1 同四1の事実中、(一)、(二)は認め、(三)は否認し(仮に、B、J債務に関し木材センターへの転貸が認められることがあっても、その余の債務に関し転貸がなされたことはない、・・被告の予備的主張)、(四)は不知、(五)の主張は争う。
2 同四2の事実中、L、M債務(別表六その3<2><3>の債務)のみ認め、その余は否認する。
3 原告主張の保証債務性については結論としてL、M債務(別表六その3<2><3>の債務)についてのみ認め、その余は否認する(被告の主位的主張)。また、仮に、L、M債務の外B、J債務も保証債務に準ずるものであると認定されることがあったとしても、それ以外の債務は保証債務ないしそれに準ずるものではない(被告の予備的主張)。この点については、後記七被告の再反論2、3で詳しく述べる。
五 同五、六の主張は、同二ないし四の主張が認められるのであれば、敢えて争わない。
六 以上、二ないし五の認否のとおりであって、佐野次郎の本件各係争年分の資産の譲渡についての所得税法六四条二項の特例の適用の有無についての被告の主張は、別表三、別表四の各被告主位的主張、被告予備的主張欄記載のとおりである。
七 被告の再反論
1 別表六その1の債務の弁済は、高尾Aの土地代金から支払われたものではなく、すべて高尾Bの土地代金で支払われた。即ち、
(一) 高尾Aの土地代金
(1) 高尾Aの土地代金のうち、五二五万円が未収であって、佐野次郎が取得した金額は、一四〇〇万円であり、その支払を受けた日は、次のとおり、昭和五一年八月三日から同年一〇月四日までの間である。
昭和五一年
八月 三日
三〇万円
土地費の振替
同日
二七〇万円
振込
同月三〇日
一〇〇万円
現金
同日
二〇〇万円
振込
同
九月 七日
一〇〇万円
現金
同月二二日
一〇〇万円
振込
同年
一〇月 四日
六〇〇万円
振込
(2) 別表六その1の債務の弁済日は、昭和五二年五月二七日ないし同年六月一三日であって、右代金受領日から最長で一〇ヶ月を経過している。従って、仮に、右譲渡代金をもって弁済したとしても、一〇ヶ月以上経過後に支払われたことからすれば、高尾Aの土地の譲渡と右債務の弁済との間に因果関係はない。
(二) 高尾Bの土地代金
佐野次郎は、高尾Bの土地を新見市に売却したところ、新見市はこれを押目圭一に転売し、代金は押目圭一から直接佐野次郎に支払うこととなり、押目圭一は右代金の支払として、阿新農協に対し、別表六その1の債務を佐野次郎に代わって弁済したものである。
従って、そもそも、高尾Aの土地代金でもって、別表六その1の債務を弁済した事実自体存在しない。
なお、高尾Bの土地の譲渡には、租税特別措置法三四条の二(特定住宅造成事業等のために土地等を譲渡した場合の譲渡所得の特別控除)二項四号の適用があり、その譲渡に係る所得金額が〇円となっているのであって、右譲渡につき所得税法六四条二項の特例の適用があるとしても、その主張をする実益はない。
2 AないしJ債務は保証債務に準ずる債務ではない。
(一) 借入金の使途
保証債務性が認められるためには、佐野次郎ら名義上の借主から実質上の借主である木材センターに転貸されたこと(原告主張のウの要件)、従って、木材センターにおいて借入金を最終的に費消したことが必要であるところ、次のとおり、右事実は存在しない。
(1) B債務の借入金は木材センターの預金口座に入金されているが、それ以外の債務の借入金は、すべて借入時には佐野次郎の預金口座に入金されている。
また、木材センターの帳簿書類等により木材センターが受入れたのではないかと思われる資金は、佐々井昌子名義のB、J債務しかなく、その他の債務は木材センターの帳簿書類等に借入等を窺わせる記載は全くない。
なお、簿外借入金の存在も一般的には考えうるが、本件にあっては、木材センターが転貸を受けたこと、従って、木材センターが借入金の費消をした個々具体的な事実の立証がない。
(2) かえって、次のとおり、佐野次郎が借入金を個人的に、個人の借入金の返済や資産の取得のため費消している事実が存在する。
<1> A、C債務の合計一〇〇〇万円は、利息を差引いた残額九九六万〇九五九円が、上田正人名義借入金三一一万五二一〇円、佐野次郎名義借入金四八万九一八八円及び三一一万五二一〇円、藤井登喜良名義借入金三一一万五二一〇円並びに原告佐野和子名義借入金一二万六一四一円の合計九九六万〇九五九円の返済に充てられている。
<2> D債務二五〇万円は、佐野次郎名義で購入した新見市下熊谷字水船一三二二番田一一六三平方メートルの購入資金に充てられている。
E債務一五〇万円は、佐野次郎名義で購入した新見市熊谷字道の上ヱ一五九一番田六一四平方メートル外六筆の購入資金に充てられている。
<3> 佐野次郎は、木材センターのみならず、佐野商店、新見自動車教習所、三福商事有限会社、ヤマニ興業有限会社の代表者等重要な地位に就任していたこと等に鑑みれば、相応の資金を調達する必要があったことは十分推認できるところであり、仮に佐野次郎が個人として資金を必要としなかったとしても、これをもって木材センター以外に資金を必要としなかったということができない。
(3) 仮に木材センターが阿新農協からの借入金を使用していたとしても、佐野次郎との間には、法的に保証関係或いは賃借関係を証するものはないから、単に佐野次郎が保証する内心の意思で当該行為をしたにすぎず、法的に求償権の行使ができないこと当初から明らかであり、このような場合は佐野次郎の木材センターに対する資産提供と認めるのが相当であり、法的な転貸の事実は存在せず、この点においても保証債務に準ずる債務であるとは認められない。
(二) 実質的債務者について
阿新農協は貸付に当って、佐野次郎についてはその資産調査をし、佐野次郎所有物件に抵当権を設定しているが、木材センターについては、資金回収の前提たる営業成績の検討はもとより、その資産調査すらしていない。即ち
阿新農協は、佐野次郎を実質的債務者と認識して貸付を行ったのであり、借入金名義人が佐野次郎ではなく、原告佐野和子や佐々井昌子を形式上の債務者とし、その保証人となっている佐野次郎を実質上の債務者として認識し、本来であれば債務者たる原告佐野和子や佐々井昌子の資産調査をすべきなのを、佐野次郎の資産調査をしたのみで貸付を行ったものである。
従って、AないしJ債務の実質的債務者は佐野次郎であり、所得税法六四条二項の適用は認められない。
(三) 特にB、Jの債務について
Bの債務は、木材センターの預金口座に入金になっており、また、B、J債務は帳簿上木材センターへ入金となっていること右(一)のとおりである。しかし、右(二)のとおり実質上の債務者は佐野次郎であって木材センターではないから、保証債務性をみとめることができないし、また、右借入金は昭和四八年四月二五日(B債務)、昭和四八年五月二五日(J債務)に借入れたものであり、その当時、木材センターの業績は多額な欠損を出している状況であり、仮に、右債務の実質上の債務者が木材センターであるとしても、佐野次郎は求償権の行使による回収の期待が持てないことを予め認識しつつ、その保証をした場合に当たり、所得税法六四条二項の特例の適用を認めることができない。
3 K債務は保証債務ではない。
(一) 木材センターの帳簿書類上、木材センターがK債務の借入をした事実は何ら記載されておらず、右借入れた資金が木材センターの事業資金に投入された事実は存しない。
(二) K債務の借入日は、昭和五一年一二月一五日であり、木材センターが銀行取引停止処分を受けて倒産した同年七月一三日よりも後であって、その債務の主債務者が木材センターであったとしても、求償権の行使ができないことを予め認識していた場合に当たり、所得税法六四条二項の特例の適用を認めることができない。
第七被告の再反論に対する認否
一1 被告の再反論1(一)は、否認する。
高尾Aの土地の譲渡代金は、債務の弁済に充てられるまで、佐野次郎の自宅で保管していたものである。 ところで、右弁済までの期間は、木材センターの倒産後他の債権者から差押えを受けるなど不測の事態を避けるため、やむをえず自宅に保管していたものであるから、右弁済までの期間の長短が因果関係を左右するものではない。
2 同1(二)のうち、高尾Bの土地の譲渡につき租税特別措置法三四条の二、二項四号の適用があることは認め、その余は否認する。
佐野次郎は、押目圭一に代払を依頼した事実もないし、そもそも押目なる人物も知らない。
仮に、被告が主張する押目圭一の代払の事実があったとしても佐野次郎に無断で行われたものであり、後日、原告佐野和子は佐野次郎の代理人として、自宅で保管していた高尾Aの土地の売却代金を持参し、阿新農協に対し右債務の充当が間違いであるとして、差替を要求し、持参していた右金員でもって別表六その1の債務の弁済に充て、弁済充当を取消した高尾Bの土地の売却代金を改めて阿新農協から交付を受け、以後、別途受領分と合わせて右金員を自宅で保管していた。
二1(一) 同2(一)(1)は争う。
(二) 同2(一)(2)に対する認否反論は次のとおりである。
(1) 同2(一)(2)<1>において被告がそれぞれ返済に充てられたと主張する上田正人、佐野次郎、藤井登喜良、原告佐野和子名義の借入金も実質上の債務者は木材センターである。
(2) 同2(一)(2)<2>のうち、佐野次郎が被告主張の土地を購入したことは認めるが、D、E債務を右購入代金に充てたことはない。
(3) 同2(一)(2)<3>については、佐野商店に転貸された事実もなく、佐野次郎は、新見自動車教習所では単なる取締役にしかすぎず、三福商事の代表者は佐野和子であって、経営には何ら関与しておらず、被告のこの点に関する主張は単なる推測にしかすぎない。
(4) AないしJ債務の借入金が木材センターによって費消されたことはつぎのことから明らかである。
<1> 昭和四七年一二月から昭和四八年一一月までの約一年間に借入れたAないしJ債務の借入金は合計約三〇〇〇万円にもなるところ、そのような大金が右の短期間に佐野次郎によって費消されたとするのは極めて不自然であり、現に、佐野次郎には資金借入をする必要性は当時全くなかった。
<2> 木材センターの原木仕入については、前渡金を渡して予約する習慣があり、木材センターの昭和四九年一月三一日現在の決算書には前渡金として一五〇〇万円余りの、昭和五〇年一月三一日現在の決算書には前渡金として一〇〇〇万円余りがそれぞれ計上されており、当時前渡金の資金需要があった。
<3> FないしH債務七〇〇万円は、木材センターが購入した新見市高尾字土ノ上二二六七番養魚場一一五〇平方メートル(後に同番一ないし三に分筆)の購入資金に充てられている。
<4> B債務八〇〇万円は、木材センターが購入した新見市高尾字中川原二三二五番一雑種地九六〇平方メートルの購入資金に充てられている。
(三) 同2(一)(3)は争う。
2 同2(二)は争う。
3 同2(三)は争う。
木材センターは昭和四八年一月三一日現在の決算書によれば、次期繰越利益として一〇四万〇八七六円を計上している。
三1 同3(一)は否認する。
K債務の形式上も実質上もその借主は木材センターである。
2 同3二は争う。
K債務は、木材センター倒産以前から存した手形借入金を何度となく書換えてきたものであって、倒産後、発生した債務ではない。
(証拠)
証拠関係は本件記録中の書証目録・証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
第一 請求原因一、二1の事実は当事者間に争いがない。
第二被告の主張について
一 被告の主張一1の事実は当事者間に争いがない。
二 同一2(鳥取の保安林の譲渡経緯)につき検討する。
成立に争いのない乙第三六・三七号証、第七〇号証、第七一号証の一・二、第七八ないし第八〇号証、証人熊代勲の証言により成立を認める乙第四〇号証、第四四・四五号証(第四〇号証のうち官署作成部分の成立は争いがない。乙第四五号証は原本の存在とその成立も認められる。)、証人青木克己の証言により成立を認める乙第六九号証、証人熊第勲、同香西利男、同青木克己の各証言によれば、被告の主張一2(一)の事実が認められる。
なお、原告は、鳥取の保安林の譲渡経緯につき被告の主張一2(二)(1)、(2)<2>、(3)、(4)のとおりである旨積極的に援用すると主張し、これに副う甲第一号証、乙第六七・六八号証、原告佐野和子本人尋問の結果が存在するが、前記各証拠に照らし容易に採用できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
第三原告の反論(所得税法六四条二項の特例の適用)について
一 資産の譲渡につき所得税法六四条二項が適用されるためには、少なくとも原告の反論一記載の各要件を充足する必要があると解されるので、検討する。
原告の反論二の事実、同三2の事実、同三3のうち少なくとも二四三万円が別表六その3<2><3>の債務の弁済に充てられたこと、同四のうち結論として、L、M債務のみ保証債務であったことは当事者間に争いがない。そして、同五、六の事実は、被告において、他の要件が認められるのであれば、敢えて争っていない。
そうすると、本件の争点は、第一点として、別表六その1記載の債務の弁済は、原告主張のとおり内一四〇〇万円が高尾Aの土地の売却代金から、残り一〇二万九三四二円は高尾Bの土地の売却代金からなされたのか、それとも、被告主張のとおり、すべて高尾Bの土地の売却代金からなされたかどうか(原告の反論三1)、第二点として、鳥取の保安林の売却代金により、二四三万円を超える金額が、別表六その3の債務の弁済に充てられたかどうか(同三三)、第三点として、L、M債務以外の債務が保証債務ないしこれに準じる債務であるかどうか(同四の一部)・・・以上の三点に尽きると考えられるので、以下この点につき、順次検討していくこととする。
二 別表六その1の債務の弁済資金について(原告の反論三1、被告の再反論1)
1 証人熊代勲の証言により成立を認める乙第四三号証、同証人の証言によれば、被告の再反論1一(1)の事実が認められる。
そうすると、別表六その1の債務の弁済日は、昭和五二年五月二七日ないし同年六月一三日であるから、右代金受領日から右弁済日まで最長で一〇ヶ月を経過していることになる。
2 成立に争いのない乙第四九号証の一ないし九、証人熊代勲の証言により成立を認める乙第四一号証、第四二号証の一ないし六、証人香西利男の証言により成立を認める乙第五〇号証、証人熊代勲、同香西利男の各証言によれば、押目圭一は、岡山県が施行する国道一八〇号線の改良工事のための道路敷地として、自己所有の土地を岡山県に売却し、その代金として、昭和五二年五月下旬一二二五万一〇〇〇円の、同年六月一〇日四九五万四九六〇円の支払を受けたこと、押目圭一は、右買収された土地の代替地を希望したので、同年八月、岡山市は、右代替用地として佐野次郎から高尾Bの土地を買収し、これを押目圭一に転売し、その代金は押目圭一から直接佐野次郎へ支払うこととなったこと、押目圭一は、右代金の支払として、昭和五二年五月二七日一一〇〇万円を、同年六月一三日四〇二万九三四二円を阿新農協の佐野次郎口座へ各入金し、阿新農協は右各入金を最終的には別表六その1の債務の弁済に充当したことが認められ、原告佐野和子本人の供述中、右認定に反する部分は、同供述中の他の部分や前記各証拠に照らし採用し難く、他に右認定を覆すに足る証拠はない。
3 なお、原告は、押目圭一の代払の事実があったとしても佐野次郎に無断で行われたものであり、後日、原告佐野和子は佐野次郎の代理人として、自宅で保管していた高尾Aの土地の売却代金を持参し、阿新農協に対し、右債務の充当が間違いであるとして、差替を要求し、持参していた右金員でもって別表六その1の債務の弁済に充て、弁済充当を取消した高尾Bの土地の売却代金を改めて阿新農協から交付を受けた旨主張するが、右充当の差替が行われたことを認めるに足る証拠はない。
4 右1ないし3のとおりであって、別表六その1の債務の弁済は、すべて高尾Bの土地の売却代金からされたことになり、高尾Aの土地の売却代金から弁済されたことを認めることはできず、高尾Aの土地の譲渡につき所得税法六四条二項の特例が適用されるべきであるとの原告の主張は、その余の点を判断するまでもなく、理由がないこと明らかである。
なお、高尾Bの土地の譲渡については、租税特別措置法三四条の二、二項四号の適用があることは当事者間に争いがなく、高尾Bの土地の譲渡につき、右条例の適用により、その譲渡所得金額が既に〇円となっているのであって、その上更に所得税法六四条二項の特例の適用の主張をする実益はそもそも存在しない。
従って、昭和五二年分の高尾Aの土地の分離長期譲渡所得金額は、別表三の被告主位的主張欄記載のとおり一七二八万七五〇〇円となり、高尾Bの土地の分離長期譲渡所得金額、分離短期譲渡所得金額はいずれも〇円となる。
三 鳥取の保安林の譲渡代金について(原告の反論三3)
前記第二、二において認定した鳥取の保安林の譲渡経緯によれば、佐野次郎は、鳥取の保安林の譲渡により現実に取得した金額は二四三万円にしかすぎず、鳥取の保安林の売却代金から別表六その3の債務の弁済に充てられたとしても、右弁済に充てられた金額は二四三万円を超えることはなく、従って、仮に、鳥取の保安林の譲渡につき所得税法六四条二項の特例が認められるとしても二四三万円を超えることはない。
そして、右二四三万円を原告に有利なように先ず税率の高い分離長期譲渡所得から控除し、残余を山林所得から控除すれば、別表四の被告主位的主張欄記載のとおり、鳥取の保安林の譲渡による分離長期譲渡所得金額は〇円となり、山林所得金額は七四〇万七四〇二円を下ることはない。
従って、保安林に関する原告の主張は、K債務の保証債務性等その余の判断をするまでもなく失当である。
四 保証債務性について(原告の反論四、被告の再反論2)
以上に述べたとおり、高尾Aの土地、高尾Bの土地、鳥取の保安林に関し、その各種譲渡所得金額、山林所得金額は、別表三、四の被告主位的主張欄記載のとおりである。
そうすると、残る争点は、高尾Cの土地の譲渡につき、所得税法六四条二項の適用があるかどうか、即ち、高尾Cの土地の売却代金でもって弁済されたことに争いのない別表六その2のA、CないしJ債務が保証債務に準じる債務であるかどうかのみである。以下検討する(なお同表その1のB債務に関しては、前記二で述べた理由により、もはや検討の必要がないが、全体とのからみで、触れる。AないしJ債務を「農協からの本件借入金」ないし単に「本件借入金」という場合もある。)。
1 原告の反論四1一、二の事実は当事者間に争いがない。
2 そこで、同四1三の木材センターへの転貸の事実につき検討を進める。
(一) 本件借入金の入金
証人熊代勲の証言及び同証言により成立を認める乙第二〇ないし第二九号証、第三一・三二号証によれば、農協からの本件借入金のうち、B債務のみ阿新農協の木材センターの普通貯金口座に入金になっているが、その他の債務は、すべて阿新農協の佐野次郎の普通ないし別段貯金口座に入金されていることが認められる。
(二) 木材センターの帳簿等
成立に争いのない乙第三三号証、第九一号証(第四八号証はその一部)、証人香西利男、同熊代勲の各証言によれば、木材センターが被告に提出していた確定申告添付の昭和四八年一月三一日現在の借入金及び支払利息の内訳書には、佐野次郎ないし阿新農協からの借入金は何ら記載がないこと、その短期借入金残高は、一〇七〇万八〇〇〇円との記載があること、右残高は木材センターの短期借入金元帳の昭和四八年二月一日の繰越残高に一致していること、右元帳には、同日から昭和四九年一月末までの期間、何回かに亙り農協から合計3200万円を借受けた旨の記帳が存在するが、そのうち、本件借入金と思われるものの記帳は、B、J債務しか存在せず、その他の記帳は、本件借入金とは別の農協からの借入金であって、D、E、F、G、H債務についてはその記帳がみあたらないこと、木材センターが昭和四九年から昭和五二年にかけて被告に提出した各確定申告書に添付されている借入金及び支払利息の内訳書には、阿新農協からの借入金残高として、昭和四九年一月三一日現在三二〇〇万円、昭和五〇年一月三一日現在一六六〇万円、昭和五一年一月三一日現在四四〇万円、昭和五二年一月三一日現在四四〇万円との記載しかなく、佐野次郎からの借入金はなんら記載されていないことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
右認定事実によれば、木材センターの帳簿書類等で、農協からの本件借入金の入金の記帳をしているのは、B、J債務しか存在せず、その他の債務はその受入を窺わせる記帳は存在しないということができる。
(三) 本件借入金の具体的使途について
(1) 成立に争いのない乙第九・一〇号証、第一八号証、第一九号証の一ないし七によれば、佐野次郎個人は、昭和四八年度中、新見市下熊谷字水船一三二二番田一一六三平方メートル、新見市熊谷字道の上ヱ一五九一番田六一四平方メートル外六筆の土地を購入していること、右購入資金は、D、E債務の借入金が充てられたことが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
(2) 前記乙第二〇・二一号証、成立に争いのない乙第六・七号証、証人香西利男の証言により成立を認める乙第六六号証の一ないし七、同証人の証言によれば、A、C債務の合計一〇〇〇万円は、利息を差引いた残額九九九万〇九五九円が、上田正人名義借入金三一一万五二一〇円、佐野次郎名義借入金四八万九一八八円及び三一一万五二一〇円、藤井登喜良名義借入金三一一万五二一〇円並びに原告佐野和子名義借入金一二万六一四一円の合計九九六万〇九五九円の返済に充てられていることが認められる。
なお、前記乙第六・七号証及び弁論の全趣旨によれば、右上田正人、藤井登喜良、原告佐野和子は、旧債務につき、単に名義を貸していたのみであることが認められるものの、その名義を貸した相手は佐野次郎個人ではなく木材センターであることを認めるに足る証拠はない。
(四) 借入申込書の「事業資金」との記載について
前記乙第六・七号証、成立に争いのない乙第八号証、第一一ないし第一五号証によれば、AないしC、FないしJ債務の借入申込書には使途として「事業資金」との旨の記載があることが認められる。
しかしながら、原告佐野和子本人尋問の結果によれば、佐野次郎は、木材センター、佐野商店の代表取締役、新見自動車教習所の取締役専務をしており、またヤマニ興業有限会社にも関与していたこと、木材センターの代表取締役には同人の甥の佐野慎一も就任していたこと、原告佐野和子は佐野次郎の妻で、ヤマニ興業有限会社の代表者であることが認められる。
右認定事実によれば、佐野次郎は木材センターのみならず、他の会社等の重要な地位に就任していたのであって、他の会社や個人的にも相応の資金を調達する必要があったことは十分推認できるところであり、前記借入金申込書に使途として「事業資金」との記載があることのみから木材センターにおいて当該借入金を費消したと認めることはできない。
(五) 原告佐野和子の供述の信用性について
原告佐野和子本人尋問の結果によれば、阿新農協からの借入は、殆ど佐野次郎が具体的手続をし、原告佐野和子はこれに関与したことがないこと、昭和五〇年佐野商店が、昭和五一年に木材センターが倒産後は、原告佐野和子は、農協からの督促により本件借入金の存在を知り、以後、佐野次郎の不動産を処分する等して、右返済の手続をしてきたことが認められる。
ところで、原告佐野和子は、農協からの本件借入金を木材センターが費消した根拠として、本件借入金を佐野次郎個人が費消したのであれば、それに相当する個人資産の増加があるはずであるのに、個人資産の増加はないこと、主人(佐野次郎)からも、木材センターのために使ったと聞いていること、当時木材センターの資金繰りが逼迫していたことの三点を挙げ、木材センターの帳簿上には、対外的信用の問題もあって、全部の負債を載せていなかった旨供述する。
しかしながら、前記(三)(1)記載のとおり一部個人資産の増加が見られるうえ、仮に、B、J債務以外の債務が木材センターの簿外債務であれば、それに見合う簿外資産の増加ないし簿外負債の減少が見られるところ、本件にあってはこれを認めるに足るだけの証拠もないこと、証人佐々井昌子の証言によれば、木材センターは青色申告法人であり、その経理担当者である佐々井昌子は、その帳簿関係につき、社長である佐野次郎の指示どおり正確に記帳していたことが認められること、及び右原告佐野和子の供述自体、農協からの借入金の個別的使途につき、何ら具体性が存在しないこと等を総合考慮すれば、原告佐野和子の前記供述部分は直ちには採用し難い。
(六) 原告が主張する木材センターにおいて費消したとする根拠(被告の再反論に対する認否二1(二)(4))について
(1) 原告は、昭和四七年一二月から昭和四八年一一月までの約一年間に借入れたAないしJ債務の借入金合計約三〇〇〇万円もの大金が右の短期間内に佐野次郎によって費消されたとするのは極めて不自然である旨主張するが、木材センターの帳簿に入金処理されているB、E債務、旧債の返済に充てられたA、C債務を除外すれば、FないしI債務合計一〇〇〇万円(但しI債務三〇〇万円の借入は右期間よりも少なくとも三年半前に行われている。)が残るのみであり、前記四記載のことを照らし合わせれば、右一〇〇〇万円を佐野次郎が木材センター以外の用途に使用したとしてもおかしくない金額である。
(2) 次に、原告は、木材センターの原木仕入については、前渡金を渡して予約する習慣があり、当時右前渡金の資金需要があった旨主張し、前記乙九二・九三号証によれば、木材センターの昭和四九年一月三一日現在の決算書には前渡金として一五〇〇万円余り、昭和五〇年一月三一日現在の決算書には前渡金として一〇〇〇万円余りがそれぞれ計上されていることが認められる。
しかしながら、複式簿記の原理上、B、J債務以外の本件借入金が右前渡金に充てられたものであれば、右借入金も木材センターの帳簿上入金処理されていなければならないのに、前記(二)のとおり入金処理されていないのであって、この点に関する原告の主張も理由がない。
(3) 土地の購入について
成立に争いのない乙九六ないし九八号証によれば、木材センターは、昭和四八年、新見市高尾字土ノ上二二六七番養魚場一一五〇平方メートル(後に同番一ないし三に分筆)の土地を購入したことが認められる。そして、原告は、FないしH債務七〇〇万円が右購入資金に充てられた旨主張する。
しかし、前記乙第九一ないし第九四号証によれば、右土地の取得は木材センターの帳簿上も記帳がされていることが認められ、複式簿記の原理上、右購入資金の入金処理もなされていると考えられること、また、前記乙第三三号証、第九一・九二号証によれば、木材センターの帳簿上、短期借入金の残高が昭和四八年一月三一日現在一〇七〇万八〇〇〇円であったのが、昭和四九年一月三一日現在四三四三万八〇〇〇円に増加していることが認められ、右増加した借入金でもって右土地を購入した可能性も否定できないこと等を考えれば、FないしH債務七〇〇万円が右購入資金に充てられたと認めることは未だ証拠不十分である。
以上(一)ないし(六)の諸事情を総合考慮すれば、B、J債務以外の農協からの本件借入金が木材センターに転貸され、木材センターにおいて費消したとは到底認めることができず、他にこれを認めるに足る証拠はない。
3 そうすると、高尾Cの土地の譲渡につき所得税法六四条二項が適用されるとしてもJ債務(B債務は前記のごとく関係がない。)、即ち別表六その2<6><7>の弁済額合計二五一万六九四五円が限度である。
従って、高尾Cの土地についての分離長期譲渡所得金額、分離短期譲渡所得金額は、少なくとも、別表四の被告予備的主張欄記載の金額となり、原告のこの点に関する主張は理由がない。
第四 以上のとおりであって、本件各係争年分の分離長期譲渡所得金額・分離短期譲渡所得金額・山林所得金額は、少なくとも本件各処分以上存在したこと明らかである。そして、佐野次郎の昭和五三年分の課税総所得金額及び課税長期譲渡所得金額の合計額が一〇〇〇万円を超えるから、所得税法九二条一項三号及び租税特別措置法三一条三項三号(但し、当時の法律による。)の規定により、配当控除額を配当所得金額の五パーセント相当額である六二五〇円とした点も適法である。
第五 以上の次第で、原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 笠井達也 裁判官 東畑良雄 裁判官 玉置健)
別表1 昭和52年分課税経緯表
<省略>
別表2 昭和53年分課税経緯表
<省略>
別表3 昭和52年分の分離長期短期譲渡所得金額の計算書
<省略>
<省略>
<省略>
(注) 上の表のうち、分離長期譲渡所得とは、租税特別措置法31条1項の規定による昭和44年1月1日前に取得した部分に係るものであり、また、分離短期譲渡所得とは、同法32条1項の規定による右同日以後に取得した部分に係るものである。
別表4 昭和53年分の分離長期短期譲渡所得金額及び山林所得金額の計算書
<省略>
<省略>
<省略>
(注) 山林所得は、「鳥取の保安林」の立木部分であり、所得税法32条の規定による所得である。
別表5 譲渡資産の明細
〔その1〕 昭和52年分
<省略>
〔その2〕 昭和53年分
<省略>
別表6 債務弁済の明細
〔その1〕昭和52年分
<省略>
〔その2〕昭和53年 阿新農協分
<省略>
〔その3〕昭和53年分 その他
<省略>
(注) <2>の「林業信用基金」分は、扶桑相互銀行扱いである。